ICT観光

ホテル・旅館のインバウンド需要への取り組み【シリーズ「日本の観光立国とICT」】

■期待される日本のWi-Fi普及

観光庁が主導する「訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業)」。メディアやイベントを通して訪日観光の魅力を発信するこの取り組みの効果は、如実に現れています。

訪日外国人旅行者数の推移をデータで見てみましょう。日本政府観光局(JNTO)によれば、2011年には622万人でしたが、2013年は初めて1,000万人を突破して1,036万人、2015年には1,974万人、2016年は2,000万人を超えました。

3年後の2020年には東京オリンピック開催が控えていることもあり、訪日外国人旅行者の数は順調に増え続けていると言えるでしょう。

ただ、迎え入れる側の日本の受け入れ体制には、まだ大きな課題が残っていると言えます。
その一つとして、「宿泊施設のインターネット環境」が挙げられます。

2016年1月に総務省と観光庁が発表した資料「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査 結果」を見ると、「訪日前に(日本で)利用するつもりだった通信手段」の1位は「無料公衆無線LAN」で70.5%にのぼり、「無料公衆無線LAN環境を利用できると特に便利な場所」の2位に「ホテル」が挙がっています(74.6%。1位は空港で81.1%)。宿泊施設で無線LAN(Wi-Fi)を利用したいと考える訪日外国人旅行者は多いのですね。

しかし、残念なことに、同資料によれば、「旅行中困ったこと」の1位が「無料公衆無線LAN環境」(46.6%)。また、総務省 情報流通行政局 地域通信振興課が発表した資料「2020年に向けたWi-Fi環境の全国整備について」(2015年7月)では、「日本の無料Wi-Fiに対する満足度」に対して、訪日外国人の36.4%が「十分ではない」「満足できない」と回答しているのです。

2015年のデータでは、「宿泊施設の無料Wi-Fi導入率」はわずか29%。平均して宿泊施設の3軒に1軒も無料Wi-Fiが整備されていないという状況です。訪日外国人旅行者を増やすだけでなく、訪れた日本に満足し、リピーターになってもらえるよう、「宿泊施設のインターネット環境」を強化する必要があると言えるでしょう。

<ココまでのまとめ>
・日本が外国人観光客の誘致を推進する中で、宿泊施設の訪日外国人への対応が求められている。
・訪日外国人旅行者数は増加しているが、Wi-Fiの環境の整備が十分とは言えない。

<参考資料>
観光庁 訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業)
観光庁 出入国者数
日本政府観光局(JNTO)発表 訪日外国人旅行者数2000万人突破
総務省 情報流通行政局 地域通信振興課 2020年に向けたWi-Fi環境の全国整備について
総務省・観光庁 「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に 関する現状調査」結果

■急増する訪日外国人旅行者にホテル業界が悲鳴?!

訪日外国人旅行者は2011年(622万人)から2016年の約2,000万人と、5年間で3倍以上という急激な増加のカーブを描いています。

この間には、中国人の「爆買い」に代表されるようにインバウンド消費も大幅に増え、2015年には消費額3兆4,771億円と過去最高を記録したことが話題になりました。政府も東京オリンピックが開催される2020年には年間4,000万人の訪日外国人旅行者数を目標にしていることから、インバウンド消費は今後も旅行者数とともに増加していくことが見込まれます。

訪日外国人旅行者が増えれば、宿泊施設も、宿泊者が増え収入の増加に繋がるのではないかと思うところですが、実際のところはそう単純な話ではないようです。

設備投資を後回しにしてきた大都市圏の宿泊施設は、急増する訪日外国人旅行者の受け皿となるため、改築・改修を行っています。例えば、ホテルオークラは創業以来の大改築を実施し、ラフォーレホテルズ&リゾーツは改修工事に約160億円をかけるそうです。
旅館などの小規模宿泊は環境整備に課題があります。そこで東京都は、小規模宿泊事業者を対象に「Wi-Fi環境整備」と「バリアフリー化」の助成事業による支援を行っています。2013年以降スタートしたWi-Fi環境整備の支援を申し込む事業者は年々増加しており、小規模宿泊施設もWi-Fiを使える場所が少しずつ増えていると言えるでしょう。

とはいえ、旅館などの小規模宿泊施設がインバウンド消費の恩恵を受けているかと言えば、「No」というのが実情です。その原因は一体どこにあるのでしょうか?

<ココまでのまとめ>
・訪日外国人旅行者の増加とともにインバウンド消費の拡大が見込まれる。
・増加する訪日外国人旅行者を受け入れられるようになるため、宿泊施設は設備投資やネットワーク環境整備が必要になってきている。

<参考資料>
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 経済レポート「2016/17 年インバウンド見通し」
平成28年版観光白書

■じつはあまり人気のない「日本旅館」。その理由とは?

観光庁が今年3月に発表した資料「宿泊旅行統計調査」を見てみると、 我が国の“宿泊事情”がよくわかります。

2016年の年間延べ宿泊者数は4億9,418万人泊(前年比マイナス2.0%)。細かく見ると、日本人延べ宿泊者数は4億2,330万人泊(前年比マイナス3.5%)、外国人延べ宿泊者数は7,088万人泊(前年比プラス8.0%)と、訪日外国人の宿泊者数のみが伸びている状況です。

訪日外国旅行者は、私たちの感覚からすると「日本らしい」「風情のある」という理由から、宿泊先として「旅館」の選択肢は多いと思いませんか? 仮に私たちが海外旅行に行ったら、現地ならではの体験をしたいと考えますよね。

ところが実際はそうではありません。同資料によると、旅館の2016年年間客室稼働率は37.9%。トップの「シティホテル」は78.7%、「ビジネスホテル」は74.4%、「リゾートホテル」57.3%という数字を見ても、旅館が低迷していることがわかります。

「旅館」が訪日外国人旅行者に嫌われているのか? というと、そうではありません。日本交通公社のレポート「行ってみたい日本の観光地」では「日本旅館」が6位に入っており、人気は高いのです。

問題は、実際に旅館には泊まらないという点。同資料によると、旅館を利用した訪日外国人旅行者は半数以下。その原因とされているのは、
・Wi-Fi環境が整っていない。
・クレジットカードが利用できない。
・海外の宿泊予約サイトに登録されていない。
などです。

つまり、現在は「旅館に泊まりたい外国人はたくさんいるのに、環境不備から泊まらない」という状況になっていると言えるでしょう。このギャップを埋めることが望まれます。

訪日外国人旅行者4,000万人――この目標の達成に向け、訪日外国人旅行者を増やすと同時に、こうした課題を克服していくことが必要でしょう。

<ココまでのまとめ>
・旅館などの小規模宿泊施設は、人気は高いものの利用されていない。
・Wi-Fi環境をはじめ、クレジットカード利用や海外サイトへの情報提供などの対応が、旅館などの宿泊施設に求められている。

<参考資料>
観光庁 宿泊旅行統計調査
日本交通公社 旅館がインバウンドに対応するために

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