ICT観光

進まない旅館のインバウンド対策。訪日外国人増加に伴い求められる環境整備【シリーズ「日本の観光立国とICT」】

■小規模宿泊施設ほど後れる訪日外国人対応

訪日外国人旅行者の数が右肩上がりで増え続けています。
日本政府観光局(JNTO)の調査によると、今年4月の訪日外国人旅行者の数は約257万人で、初めて単月で「250万人」を突破しました。前年同月(2016年4月)の数と比べ23.9%もの増加となり、急激に訪日外国人旅行者の数が増加していることがわかります。

「観光立国」を目指す日本にとって、訪日外国人旅行者の増加はポジティブなニュースですが、インバウンドの受け皿である「宿泊施設の整備」が課題になっています。
特に整備が必要になるのは、「小規模」の「旅館」です。

国土交通省 国土交通政策研究所が2014年に発表した資料「旅館ブランドに関する調査研究」によると、国内の旅館で「外国人旅行者の集客に取り組んでいる」と答えたのは、200室以上の大型旅館が「92.9%」に対して、50室未満は「43.2%以下」と、半数以下の数値でした。小規模の旅館ほど外国人旅行者の受け入れ体制が整えられていないということがわかります。
「50室未満」の旅館はアンケート対象の旅館のうち68.7%を占め、多くの旅館が「対策不十分」と言わざるをえない状況が浮き彫りになっています。

訪日外国人旅行者を受け入れる環境をつくるうえで、旅館経営者が必要と思っているものの1つが「無線LAN(Wi-Fi)など通信環境を整えること」です。
同資料の、旅館経営者に「訪日外国人旅行者に旅館に宿泊してもらう、または知ってもらうために業界全体で必要な取り組み」の項目では、1位「海外での情報発信」、2位「海外エージェントとの協力」、3位「通信インフラの整備(Wi-Fi等)」となっています。
上位2位は旅館自体の設備とは異なるため、設備ニーズの1位は「Wi-Fi環境」と考えて良いでしょう。実際、多くの訪日外国人旅行者が「日本でWi-Fiが使えずに困った」と回答しており、経営者も「Wi-Fi環境の構築」を課題としてとらえていることがわかります。

<ココまでのまとめ>
・急増するインバウンドに伴い、「受け皿」となる宿泊施設の整備が課題になっている。
・特に問題を抱えているのは小規模旅館。取り組みを行っている数自体が少ない。

<参考資料>
日本政府観光局 訪日外客数(2017 年 4 月推計値)
国土交通省 国土交通政策研究所  旅館ブランドに関する調査研究
(50%未満の合計はp.17 図3-2から計算)

■ホテルに比べて低い旅館のWi-Fi整備率

せっかく日本に訪れた外国人には“和の魅力”が詰まった旅館を体験してもらいたいものですが、残念ながら「ホテル」と比べて旅館はWi-Fiの整備が大きく遅れている現実があります。

観光庁が2012年に発表した「観光産業の現状について」という資料では、「無料公衆無線LANを全館で提供している」と回答したのは、ホテルが223施設のうち20%、旅館が402施設のうち6%という結果でした。
5年前のデータということもあり、ホテルもまだ割合は少ないですが、旅館はさらに整備が進んでいないことがわかります。

その原因の1つは「旅館に泊まる訪日外国人旅行者が少ないこと」でしょう。

前述の「旅館ブランドに関する調査研究」によれば、旅館の宿泊者のうち訪日外国人が占める割合は「1%以上5%未満」が最も多い(40.9%)という現状があります。つまり、
旅館が訪日外国人対応をしていない
→ 訪日外国人が泊まらない
→ 旅館は割合の少ない部分に整備費用を出せない
という循環が生まれているのかもしれません。

そもそも、特に「地方の旅館」の経営状況が厳しいという背景があります。

観光庁が今年5月に発表した「宿泊旅行統計調査」によると、旅館の稼働率は「全国平均」が38.9%に対して、東京都は57.9%、大阪府は58.6%と都心部が高く、一方で青森県25.8%、福井県26.3%など、地方部の旅館の稼働率が低いことが数値として現れています。

<ココまでのまとめ>
・インバウンド対応はホテルと比べて旅館のほうが遅れている。
・地方の旅館は整備が後れ、全体の宿泊数が減少しているおり厳しい状況。

<参考資料>
観光庁 観光産業の現状について
観光庁 「明日の日本を支える観光ビジョン」施策集
行統計調査

■「観光ビジョン実現プログラム2017」への期待

この状況に対して、国はどのような対応をとっているのでしょうか。
政府は2017年5月、訪日外国人旅行者を取り込む観光ビジョンを踏まえた、今後1年を目途とした行動計画として「観光ビジョン実現プログラム2017」(観光立国推進閣僚会議)を発表しました。

この中で「視点 2.観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が国の基幹産業に/宿泊施設不足の早急な解消及び多様なニーズに合わせた宿泊施設の提供」の項目には、2016年からの継続として、

「旅館、ホテル等宿泊施設に対するインバウンド対応促進支援(Wi-Fi環境整備、多言語化対応等に係る整備事業に要する経費の1/3(上限100万円)を支援)を行い、訪日外国人旅行者にとって利用しやすくすることにより、宿泊施設不足の解消及び多様なニーズに合わせた宿泊施設の提供を促進する。」

と明記しています。また、「視点 1.観光資源の魅力を極め、「地方創生」の礎に/東北の観光復興」で、

「東北6県の外国人宿泊者数を2020年に150万人泊(2015年の3倍)とするため、今後5年間に2000人規模の海外の旅行会社関係者等の招請、交通フリーパスの改善、広域観光周遊ルート形成の促進、旅館の再生・活性化等の取組を実施」
として特定地域の宿泊施設の支援を強化することが示されています。
宿泊施設不足解消のための全国に向けた旅館などに対する投資促進の支援や、東北復興として外国人宿泊を促すような旅館の再生・活性化などの実施が謳われているのです。

こうした政府の支援によって、地域の旅館を含む日本の宿泊施設の環境整備が進み、訪日外国人旅行者にとって“魅力的な宿泊施設”に生まれ変わることを期待したいところです。

同資料の冒頭にもあるように、政府は東京オリンピックが開催される2020 年に訪日外国人旅行者数 4000 万人を目指しています。旅行者の数は順調に伸び続けているので、課題は宿泊施設の整備。2020年までの残り3年弱で整備がどこまで進むでしょうか――。

<ココまでのまとめ>
・政府は今年5月に「観光ビジョン実現プログラム2017」を発表した。
・プログラムでは宿泊施設のインバウンド対応支援が明記されている。

<参考資料>
観光ビジョン実現プログラム2017

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