ICT×観光

100年を超えて日本のインバウンド事業に取り組み続ける――JTB様インタビュー

日本は今、国をあげて観光立国を目指しており、訪日外国人が増加し続けています。
これまで、訪日外国人の動向について、観光庁などの発表資料をもとに紹介してきました。こうした資料の各国からの訪日者数や消費額などといったデータから、訪日外国人の動向や傾向をうかがい知ることができますが、実際に外国人の訪日に関わる方々は現在の状況をどのようにみているでしょうか?今回は旅行関連の事業をされるJTBグループのご担当者にお話を伺いました。


<インタビュイー プロフィール>

【左】株式会社JTB グループ本社 訪日インバウンドビジネス推進部 石野 真菜 様
JTBグループのグループ本社に2年前立ち上がった訪日インバウンドビジネス推進部で、旅行商品をはじめ受け入れ推進などさまざまな取り組みで訪日インバウンドに携わっている。
【右】株式会社JTB国内旅行企画 訪日インバウンド企画部 訪日インバウンド戦略室 岡本 崇 様
旅行商品の内容や流通チャネル、販促などを企画。JTBグループのJTB国内旅行企画は、もともと日本国内商品の造成を行っていたが、2017年の商品からインバウンド商品を企画・造成している。


JTBグループは、観光庁による「旅行業者取扱額」で取扱額が高く、外国人旅行取扱額がトップの企業。もともと外国人を日本に誘致しようと立ち上がった組織である「ジャパン・ツーリスト・ビューロー(Japan Travel Bureau)」が1912年に創立され、以降100年以上外国人誘致に取り組んでいます。

■アジア圏の訪日増加への取り組みに加え、訪日時の消費額への注目から欧米豪に注力

――訪日外国人の増加傾向が続いている状況ですが、これを受けてJTBグループではどういった方向性で事業に取り組まれていますか?

石野 真菜 様(以下、I):
これまでは、国も含めて、訪日外国人旅行者数の多いアジアに向けた取り組みを強化してきましたが、政府の方針で訪日者数だけでなく消費額の向上にも注目が集まっています。その中で注力されるのがアジアと比べて滞在日数が長く消費額が高い欧米豪です。

岡本 崇 様(以下、O):
JTBグループでは、訪日外国人向けツアーの主力商品として「JTB サンライズツアー」(以下、サンライズツアー)を展開しています。50年以上あるブランドで、もともと主に欧米をターゲットとしていましたが、近年はアジアからの訪日増加にフォーカスした旅行商品も拡充しています。

――事業を展開される中で、最近訪日外国人の動向で目立つ傾向はあるでしょうか。

I:
時期による違いが大きいです。日本の四季によって異なりますし、現地の休暇が大きく影響してきます。最近の目立った例が、「春節」(中国の旧暦の正月)の旅行です。その時期は中国や台湾の方に向けた商品を打ち出しました。

O:
まず、年間を通して展開している「定番」のツアーが複数あります。ガイド付きのツアーや1日ツアー、宿泊付きなどあって、主に英語ガイド付きの商品となるため欧米の方々の利用が多いです。一方、桜や紅葉に焦点を当てた観光や春節向けなどの「季節商品」は、アジアの方々の利用が多い傾向があります。桜は認知度が高く、アジアにも欧米にも人気ですね。

――「定番」というのはどのようなものですか?

O:
昔から人気があって、主に初めて日本を訪れるお客様が参加するものです。例えば、富士山、箱根、都内の名所を巡るバスツアー、京都1日バスツアー、三鷹の森ジブリ美術館に行くツアーなどで、富士山と箱根は圧倒的に多く売れています。定番のものは、ホテル送迎がついているものが多く、朝集合してもらえれば「後はお任せください」という内容になっています。

――「季節商品」の利用はアジアが多いのですね。

O:
季節商品は訪問先が地方の商品が多いのですが、日本と比較的距離の近いアジアの方々はリピーターが多く「今回は東京でなく地方へ行ってみよう」などとなりやすい。欧米豪の方々にとって日本に来るのは一大イベントで、初めてである場合も多く、定番のツアーが人気です。気軽に行けると深掘りするようになり、なかなか行けないとなると定番が選ばれやすいという訳です。アジアはLCCの就航も活発になって地方空港への乗り入れもあり、導線もかなり自由度が高くなっています。それも、アジアの観光の幅が広がっている要素でしょう。
弊社が地方の商品を多数構えているというのもありますが、リピーターが増えたこともあり北海道、東北、九州、沖縄など地方の商品の販売が伸びています。

I:
地域分散化は最近の傾向ですが、受け入れ環境やニーズを踏まえて取り組むべきととらえています。今まで東京・大阪など大都市に集中していたツアーなどを、各地域でそれぞれ商品化できるよう取り組んでおり、商品以外でも、北海道から沖縄まで全国21箇所に設置したTIC(ツーリストインフォメーションセンター)の運営を通じて、訪日外国人とリアルな接点を持って知見を貯め、旅行商品の販売やプロモーションを行っています。

――御社にとってインバウンド事業とは旅行商品企画だけではないということですね。ほかにどのような取り組みがあるのでしょう?

I:
地域、企業様それぞれの課題に合わせて、戦略策定を支援し、訪日外国人客を呼び込むためのマーケティング、その地域ならではのコンテンツの開発、旅行者のストレスを軽減する多言語対応や人材育成等の受入環境整備までトータルでサポートしています。受入環境整備の1つとして他社との協業も行っており、例えば、ヤマト運輸様と荷物の宅配サービスを始めました。「旅行者の課題解決」というところで広く手がけていこうとしています。

■雪の夜のライトアップ、北関東の花祭り――人気の観光スポット

――ご説明から、商品企画の傾向として、アジア向けは再訪者向けを充実させ、加えて欧米の人々に初来日も踏まえもっと来ていただくことが課題になっている、というように、訪日者の地域ごとに傾向や注力しているところが異なる印象を受けました。その点でこの数年の間に変化はありましたか。

I:
おっしゃる通りで、リピーター率はアジアを含め上がってきていますが、一方で欧米豪はまだ初回の割合も多く、地域やターゲットによってPRの仕方が異なるので、それぞれに合わせた方法をとっています。

O:
サンライズツアーのパンフレットも、もともとは分厚い定番のパンフレット1つで全世界対応だったのですが、その中から、2018年はアジア向けの抜粋版を作成しました。
JTBグループでは、各地ならではの体験や、定番のバスツアー、食事が充実したものなど、お客様のすべてのニーズに対応できるよう商品ラインナップを拡充しています。変わり種の商品を毎年提案しており、ニッチなところでは、長野県飯山でのかまくらの夜のライトアップ(かまくらをライトアップして、その中で食事をする)ツアーなどは中国などアジアの方々に人気で、雪とのマッチングで特別商品としてヒットしました。
ほかにも北関東の花祭りやあしかがフラワーパークなども訪日者が増えています。JTBグループとしても、来年度北関東をフィーチャーしたキャンペーンを実施予定で、まだまだ増えるのではないかと思います。

――そうした事例は興味深いですね。観光庁の資料などを調べるのみでは、訪日外国人が日本に来てどう動いているかが、なかなかみえてこないと思っていました。
先ほど定番についてご説明いただきましたが、ジブリ美術館だけ耳に新しく聞こえました。歴史や伝統のあるスポットが多い中で、そういった現代のもので定番化しているものはありますか?

O:
新宿歌舞伎町のロボットレストランは今もすごく人気で、定番化していますね。メイドカフェも人気です。

■フィリピンの方々は歩くのを嫌い、フランスはツアー参加が少ない――旅行に表れる国民性

――訪日外国人のニーズをとらえようと考えると、現地にないものや日本でしか体験できないことが求められていると言えるでしょうか。

I:
そうですね。雪のライトアップは、自国で雪が降らない国の方々が、花も自国にない花を観に、それぞれ訪れる傾向があります。先ほどの話で触れたロボットレストランやメイドカフェなどは、1日ツアーに参加した後の夜の時間、空いている時間に参加できるところがヒットにつながった要因でもあります。インバウンドにおいてナイトタイムコンテンツの不足は注目されており、弊社としても夜の時間の新しいコンテンツの企画・開発を手がけています。

O:
相撲も日本でしか味わえないものですね。サンライズツアーの商品でも相撲の含まれるものは人気で、確保するチケット数を増やしても完売する状況です。
ニーズについては、国別の国民性が出るところがあります。例えば、フィリピンの方々は歩くのを嫌うところがあり、空港からの送迎やバス移動などの商品が売れます。また、フランスには英語を含め他言語に不安のある方が多く、移動手段やチケット等を事前に手配し、ガイド付きツアーではなく個人で日本を巡る方が多い傾向があります。

■オンライン予約対応の重要性。受け入れ体制としては多言語対応、Wi-Fi環境

――訪日外国人の皆さんはJTBグループの商品をどう利用しているのでしょう。どういう経路を経て接することになるのでしょうか?

I:
主に、海外のエージェントに対して商品を卸しお客様に販売をされるBtoBでの販売と、JTBの訪日外国人旅行者向けのBtoCサイト「JAPANiCAN.com‎」で販売されている商品をお客様が直接購入する方法があります。

――販売のボリュームは、現地の代理店が多いですか?

O:
はい、多いです。それと、提携のウェブサイトからの購入がかなり増えてきていて、各国で強いウェブサイトに商品を卸すことが大事になっています。日本は店舗が強いですが珍しい方で、他の国、特に欧米は店舗自体がほぼありません。スマートフォン普及もあってオンライン予約の比率がかなり上がっています。

――オンライン対応が重要ということですね。加えて日本側の受け入れ体制について伺います。先ほどのナイトタイムコンテンツの拡充も課題の1つと言えそうですが、ほかに課題や改善すべき点はありますか?

O:
よく言われることですが、まず英語ほか多言語表記対応が重要です。言葉、コミュニケーションの問題は大きいです。そして旅行商品に組み込む施設などについては、Wi-Fi対応や、外国語対応可能なスタッフがいるかなど受け入れ体制ができているかどうかが条件になります。例えばWi-Fi環境は、宿泊施設を載せたパンフレットでは必ずWi-Fiの有無を大きく掲載しており、ウェイトは大きいです。IT関連設備ではほかに、ツアーでその国のガイドがいなくても対応できるガイドサポート機材である「マルチリンガルイヤホン」という機器があり、それが完備されているツアーには、さまざまな国からの訪日者の参加が見込めます。

――貴重なお話をいろいろお聞かせいただきました。最後に、今後の訪日促進に関する意気込みをお聞かせください。

I:
海外からの日本への注目度は日増しに高まり、訪れる外国人旅行者の数も着実に増しており、政府は2020年の訪日外国人観光客数の目標として4000万人を掲げています。インバウンドを主旨として創立した当社はこれまで多くの人々の実人流を創り出してきましたが、そこから培った当社独自の経験やデータ、世界中のネットワークをもとに、2020年に800万人の訪日外国人客の取り扱いを目指して、インバウンド事業に取り組みます。

――ありがとうございました。

<参考URL>
JTB TIC(ツーリストインフォメーションセンター)
JTB インバウンドソリューション
JAPANiCAN.com‎

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