ICT×教育

ICT導入が、生徒と地域をつなぐ「プロジェクションマッピング」プロジェクトに――掛川西高等学校 吉川牧人先生インタビュー

学校のICT環境整備が進み、教育の情報化が推進される中、新学習指導要領が全面実施される2020年がいよいよ迫り、既存の教育からどう実現していくかが課題になっています。

「掛川城プロジェクションマッピング」は、静岡県立掛川西高等学校(以下、掛川西高校)の高校生が掛川市と実現したプロジェクト。雑誌やメディアでも取り上げられ話題になりましたが、このプロジェクトは、ICTを活用したアクティブラーニングであり、新学習指導要領で重視される「社会に開かれた教育」「主体的・対話的で深い学びの実現」を実現した活動として評価される結果となっています。今回、本プロジェクトを導いた同校の吉川牧人先生に、この取り組みの背景や今後の想いを伺いました。


【掛川城プロジェクションマッピング】

掛川市のシンボルである掛川城。その天守閣や城壁、本丸広場にプロジェクターで映像を投影して鮮やかな光で彩り、訪れた人々を魅了した。掛川城主山内一豊や二宮金次郎など郷土の歴史や掛川で咲く花々などを紹介する映像は、学校に導入されたiPadなどを用いて作られた。このプロジェクトの企画、制作、運営すべてを掛川西高校2年生の有志が手がけ、2017年12月の開催時には1000人以上が来場。高校生による地域貢献活動として話題になり、その後も2018年2月、3月と続演された。
(※本記事のプロジェクションマッピングの画像は鈴木聖人氏提供)


吉川牧人先生プロフィール

掛川西高校で世界史を担当するほか、研修課長 ICT推進委員長を務める。現在、部活動は担当していないが、以前は15年もの間女子バレー部を担当。趣味は海外探検。世界史の教師ということで、世界中のいろんなものをみたいと考え、カンボジアやタイを訪れ、今年はインドネシアとトルコに行くという。写真は「第9回 教育ITソリューションEXPO」における講演時のもの。


■ICT機器の導入に際して設置された<ICT係>。プロジェクトの構想はここから始まった

――掛川城プロジェクションマッピングの模様を拝見して、高校生の制作した映像のクオリティーや、スケールの大きさに圧倒されました。何が発端でこのプロジェクトは立ち上がったのでしょうか。

本校の<ICT係>で希望した生徒にICT研修をするところからスタートしました。ICT係は、生徒の委員会に位置づけられるもので、各クラスから2名選出されます。2018年4月にICT機器が導入されるということでできた組織です。

――「ICT係」の役割とは何ですか?

教師がICT機器を使うのはハードルが高い。例えば、授業でプロジェクターやiPadを使おうとしたら準備も必要で、休み時間にこなすのは不可能です。それで、ICT係が事前に準備するようにしたんです。先生が教室に行くと、もうICT機器を使える状況になっている。そのようにすれば、利用が定着していくのではないかと考えました。

――なるほど……教師がICT環境を用意してそれを運用するものだというイメージがあって、授業の準備も先生の仕事ととらえていましたが、そこを生徒が担っているのですね。

そうですね。教師がICTを本当に運用していくというのはなかなか厳しい。自身がガラケーを使っていてスマホすらよくわからなかったりで、何が何だかわからない場合もあるでしょうし、授業でミスしたり戸惑ったりしたらどうしようというプレッシャーもすごいと思うんです。そこを生徒がやってくれればハードルが下がるし、トラブルも生徒がわかっていて解消してくれます。
生徒は「さもなく」ICTを使える。息をするようにスマホを使っていて、ICTを使わないのはむしろ不自然なくらいです。トレーニングする量でみれば、教師のトレーニングで必要な量の100分の1程度で100倍の成果が出るんじゃないでしょうか。逆に言えば、必ずしも教師が使える必要はないんじゃないかなと思っています。

今年度からG Suite for Educationを始めたのですが、そのアカウントを配布する際も、まずICT係がアカウントを登録し、それをクラスで教えると、段階を踏んでいます。教師からではなく生徒同士で教え合い、生徒から環境を作るやり方を始めています。

――ICT係の活動の延長線に、生徒から「プロジェクションマッピングをやりたい」という要望があったのですね。

はい。授業や部活動とも違ういわゆる委員会活動として、ICT係で学校や地域としてやりたいことをまず生徒に聞き取りました。それこそGoogle Formsでアンケートをとって。

――G Suite for Educationのお話が出ましたが、プロジェクトではschoolTakt、Slack、Zoom、制作でUzu、KeynoteなどといったICTツール/アプリを利用されたのですよね。その選定や使いどころなどはどう決めていったのでしょうか?

教育ICTの活動支援をする一般財団法人「センセイワーク」さんに協力いただきました。「これをやりたい」と伝えれば「こういうのがある」と具体的なツールを提案してくれて、その使い方を生徒と学ぶといった流れです。最新のICT事情を知るプロのサポートをうまく利用できました。

――プロジェクト全体で、いろんな段階や場面があったと思いますが、ツール/アプリなどの支援のほかに、特に役立ったものはありますか?

運営面で、かけがわ街づくり会社という第3セクターが、いろんなアドバイスをくれました。実際に市のプロジェクトはこうやっているのか、こういう人たちが絡んで関わっているのかとよくわかって、僕自身も勉強になりました。

■地域に貢献したいと考える高校生。応援したい地域

――このプロジェクトは、そうした企業や地域など、各所を巻き込んで実現しています。同じようなことをしようと考えたら、まず参加してもらうところで頭を抱えてしまいそうです。どのようにして行政、外部企業などに協力してもらう形にできたのでしょう?

今の高校生は、何か地域に貢献したいという気持ちがとても強いと感じています。その気持ちをつなげていこうと動いた、というのが一番大きいと思います。こうしたら、地方公共団体側も今、人口減少や若者の地方離れなどを心配していて、高校生がこうしたことを地域で行うことに対して、期待感や応援したいという気持ちを持っていたんです。そのため声をかけていったら思いのほかトントン拍子で進みましたね。

生徒から「掛川でプロジェクションマッピングをやりたい」という話が挙がり、「どうやってやるんだろうね」、と問い合わせて。いろいろ聞いていったらさまざまな所に話がつながっていって、「あれ?行けそうじゃん」と。なんとかなってしまうものだなあという感じでした(笑)
僕は常に「ハブ」として動き、生徒の意見を各関係先に伝え、各関係先の要望を生徒につなぎました。それが僕の一番大事な仕事でした。回りそうな状況を作る、つなぐ役割。

掛川西高校の生徒は、掛川城管理事務所、チラシをつくる広告代理店、市役所などさまざまな関係部署とやり取りしてプロジェクトを進めた

――8月にスタートして、有志を集めたのが10月、12月23日に実演ということで、それなりに長い期間ですよね。実演内容のクオリティーをみると、こんな成果に到るのは難しそうにみえます。生徒がちゃんと作品に辿り着けない心配はなかったでしょうか?

私もマネジメントの立場として誉めるところはしっかり誉めていったりとか、ちょっとした気配りはしましたが、生徒の中で声がけなどがありましたね。例えば、まじめでおとなしい子が周囲に頼りにされることで積極性を出していったり……といった雰囲気で、責任感も生まれ、盛り上がっていきました。
このプロジェクトは大きなお金はかかっていませんし、もちろんいただいてもいないので、関係各所には、最初に、高校生が地域活性化に取り組んだということで汲んでくださいと、リスクもふまえて伝えてはいましたが、結果的には万事うまくいった感じですね。

各所を巻き込んだという点では、いわゆるタイアップを利用できたのはポイントの1つです。インターネットなどで調べると、「モニター募集」「提携募集」というのがいろいろあって、そういうものを地道に探しました。センセイワークさんの支援も、Web上でされていた提携募集に応募したんです。先ほど挙げた街づくり会社にしても、どこの自治体でも、市役所などに、地域振興に取り組んでいる部門があるものなので、そこに問い合わせてみれば、必ずカギはあるはずです。

地域の期待は、学校側で思っている以上に大きくて、そこをお互いに踏み出せれば形になっていく気がします。例えば、企業が高校生とタイアップするとなってもどうしていいかわからないし、こちらとしてもどう企業と関わっていいかわからないんだけど、踏み出してみるとお互いのニーズが合って、Win-Winの関係になれたりして。

■生徒の発想は回を重ねるたびに進化。デジタルネイティブの吸収力

――プロジェクトによって生徒の発想が「進化」したとプレゼンされていたのが印象的でした。どのような点でそれをお感じになったのでしょうか?

最初のプロジェクションマッピングは「掛川の歴史をお城に映写する」というものでしたが、その後、ダンス部の公演の演出も行うことになり、その際には、「ダンスの相手のイメージに合わせたものをクリエイトする」という、またレベルの違うものになっていたんですよ。こちらで勝手に作りたいものを作るのではなく、相手の世界観を表現するという段階に進化したというのがあります。
また、12月の掛川城のイベントでは、ただ鑑賞するだけのプロジェクションマッピングだったのですが、3月の掛川桜祭りでは、訪れた子どもが映像を動かせるようにして、体験を共有するというものに進化しました。生徒の「やってみたい」から、さらに次の段階に進めていけたと思います。
映像も、12月23日はセンセイワーク主導の内容でしたが、その後本人たちが勝手に技術を取り入れていって、よりオリジナルな表現にパワーアップしてるんですよ。

――生徒はさまざまな体験をし、学びを得てきたと思います。振り返って、それはどのようなものだったでしょう。まず、制作面ではいかがでしょう、具体的にはICT面ということになるでしょうか。

今の高校生は「デジタルネイティブ」と言われますが、だからといってデジタルデバイスを自在に操れるという意味では少し違うと僕は思っています。ほとんどの生徒は、実はスマホでLINEとYouTubeしか使っておらず、スマホにさまざまな機能があることも知らなかった。ただし、きっかけを与えて使い方や意義を教えれば、ものすごい速さで吸収する力がある。そして、今回使用したICTツールを習得できた。スマホやタブレットという端末がとてつもない可能性を持つことを彼ら自身が改めて認識し、例えばKeynote でプレゼンできることを知り、さまざまなアプリを使って自分のやりたいことを表現できることも発見した。そのきっかけになったことが大きな成果だったと思います。

――人間的な面での教育の成果という観点ではどうでしょうか。

生徒の感想で心に残っているんですが……高校生活で大人と関わる機会が、先生と親以外にないようなんですね。だから、地域の大人とあれだけ関わるのは初めてで、知らない大人と関わることが苦手だったのに、苦もなくできるようになったのが自分の中で驚きだという感想があったんです。社会に出ていくステップとして、これから大学生、社会人になっていく上で、大きなきっかけになったのではないかと思います。

もう1つあります。例えば留学したり、イベントに参加したり、経験できることはそこら中に転がっていますが、自分で何かを経験した後、それをまとめて発信することはなかなかないと思うんです。きちんと振り返って自己評価したり表現したりできたのは、今回彼らの成長になっているんじゃないかなと思います。社会で何かのプロジェクトを任された時に、ある程度の道筋を経験できたんじゃないかと思います。そういう部分で成長したなあって親のような気持ちで涙ぐんだりして(笑)
<参考URL>
掛川西高校 – ホームページ

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