ICT×教育

ICT環境整備は「生徒目線」で。教師は今後ファシリテーターに――掛川西高等学校 吉川牧人先生インタビュー

学校のICT環境整備が進み、新学習指導要領が全面実施される2020年が迫っています。
静岡県立掛川西高等学校の高校生有志が実現した「掛川城プロジェクションマッピング」は、ICTを活用して達成され、新学習指導要領で重視される「社会に開かれた教育」「主体的・対話的で深い学びの実現」を実現した活動として評価されたプロジェクト。この取り組みに携わった吉川牧人先生へのインタビュー前編では、このプロジェクトの舞台裏に踏み込み、ICT教育のヒントを探りました。
本記事のインタビュー後編では新学習指導要領への対応の考え方や吉川先生が感じる今後の教師のあり方などへと話題は発展しました。

■一斉型の授業・講義が、崩れようとしている今、大事なのは生徒と一緒に新しい授業を作っていくこと

――掛川城プロジェクションマッピングでは、課外活動ながら2020年から実施される新学習指導要領の【社会に開かれた教育】【主体的な学び】【対話的な学び】【深い学び】といったポイントが押さえられているというお話を伺いました。来たる新学習指導要領に備えることは、目下、学校で重要な課題ですが、現状から移行する難しさがあるように思えます。

今まさに、一斉型の授業・講義が、崩れようとしているのだと思います。さきほど<前編>も話しましたが、これまでは、教師は授業の場にしろ、教材やプリントの用意にしろ、すごく練って演じることで完結していた部分がかなりあって、それが評価されてきたと思うんです。
ところが、それではダメだということになって、生徒によりアクティブに思考させたり活動させたりすることが求められるようになろうとしていて、おそらくほとんどの教師が何をしていいかわからない状況です。そんな、ある意味ゼロに戻る今、結局は、生徒と一緒に新しい授業を作っていくことが大事なんじゃないかと、僕は考えているんです。
例えば、本校は4年前からアクティブラーニングに取り組んでいますが、ではアクティブラーニングとは何なのかというのも、さまざまな定義があるし難しいじゃないですか。

――そうですね……いろんな先生のお話をお聞きする中で、「今後、教師はプレゼンターではなくモデレーターにならないと」というようなお話も出ます。

そうですね。言い方はいろいろありますがメンターとかファシリテーターとか。そう考えると、今回のプロジェクトの自分のハブの役割というのはまさにファシリテーターなのかなと思います。授業でも、やはり、生徒を動かすのに何が大事かとか、どういった意義を見出させるとか、グループでの協働作業とか、そういうところが重要で、このプロジェクトとすごくリンクしている気がします。

■ICTは生徒と共に学び実践する

――プレゼンを拝聴して思いましたが、吉川先生ご自身はタブレットを非常に抵抗なく使われていますよね?

ここ数年はそうですが、実は、本校に来る前は一切使ってなかったんですよ。

――えっ!そうなのですか。てっきりICTに強い先生として各校を回られていたのかと……。

いえいえ違うんです。元々持っていませんし、センセイワークに教えてもらった流れです。でも、詳しくない僕も、これ(持参したiPadを指して)が直感的に使えてすごいなってびっくりして。プレゼンも作れるし、タップしていけばできちゃうし。そう考えたら余計に生徒にもやらせたくなったところがあります。

――生徒がやっていることをそのまま実践している感じですね。生徒と併走しているというか。そこも大切かもしれません。

たしかにそうですね。生徒と一緒になって想像し理解する。生徒が発見したことを教えてもらったり、まあ、共に学んでいるんですよね。僕も含めて学び合う。

――ICTは最近だったということですが、逆にこれまでの教師経験が今に活きた要素はありますか?

そうですね……例えば部活に注力していた頃に、練習試合をどこと組むかとか、合宿の手配、体育館の取り方、地域の大会との関わり方など、いろいろマッチングさせていましたがICT利活用の推進や今回のプロジェクトに関する取り組みは、その時の感覚が活きてるなと、自分の中では思っていました。だから、今後の先生に求められていることは実はいろんな先生が教員生活でやってきたことの、延長線上にあると思うんです。

■ICT環境整備は「生徒目線」で実施。「1歩だけ進んで」事例が他校に役立つように

――掛川西高校は、校舎のリフォームに合わせてICT環境を整備され、その際、「やりたいと思った人が やりたいと思った時に やれるような環境づくり」を目標にされたとプレゼンでお話しされていました。どのように考えてこの目標になったのでしょう?

新学習指導要領の前までは、全教師が必ず同じ教育方法で、教育機器で授業しなければいけない雰囲気が強かったと思うんです。ところが、アクティブラーニングとか英語4技能とかICTとか小学校の英語とかプログラミングとか、次々出てきて教師が追いついていけない。一体何をやればいいのかとフラストレーションも溜まっています。そうした状況で、ICT環境を整備したから全教師がすべての授業で同じくICTを使いましょうということになったら、スムーズにいかない部分が当然出てきます。

むしろ、生徒がICT機器によって学び、それを身につけていく方が大事なので、そのための整備、つまり「生徒目線の整備」をして、使える教師はそれに乗っていきましょうという形で考えたんです。教師がフィールドを貸す役割になって、そこでプレイヤーたちが好きなことを、デバイスを使ってやっていくというようなイメージでしょうか、それで十分だと思います。それでこの目標なんです。

――たしかに新しい教育をやるのに従来目線でどうすれば良いのだろうと考えてしまっているところはあるかもしれません。でも、整備要件に落とし込んだり機器選定する時に「これが基本・基準」というのをどう決めれば良いのでしょう。

掛川西高校で僕がICTを推進する立場で一番重視しているのが、「1歩だけ進んでやっていこう」ということです。ウチでやった成果を、静岡県のほかの公立高校のモデルケース、先行事例として広めていければと。教育委員会と一緒に静岡県の理想のICTを作っているという意識でいます。そのため、県の教育委員会と使うルールからデバイスからすべて綿密に擦り合わせています。G Suite for Educationも県の傘下で登録しています。学校独自でやるという選択肢もありましたが、県とタイアップしながらやっていけば、ほかの学校も続きやすい。

■ICTは生徒ができることが第1。必ずしも教師ができる必要はない

――今回のプロジェクトは課外活動でしたがICT活用として、掛川西高校ではほかにどういった活用をされていますか?

担当する世界史の授業では、グループで興味を持ったことを調べ、動画で発表するという、調べ学習から発表までを各自のスマホや学校のタブレットで完結しています。
また、教師からなるICT推進委員会のメンバーが各教科から集まっていて、ICT活用について、情報交換しながら進めています。例えば、英語4技能の指定を受け、今年からオックスフォードの電子教材を学校のデバイスに入れて活用したりしています。
G Suite for Educationを導入したので、それを活用して生徒の生活環境や学習履歴などのICT化を進めていけば、結果的に授業での活用もより進むことになるでしょう。

生徒はiPadを駆使して、プロジェクションマッピングの映像制作をはじめ、チラシの作成なども行った(写真はKeynoteを使用しているところ)

――将来の教育の姿も変わりそうですね。

先ほども言いましたが、生徒ができればいいんです。必ずしも教師が全部できる必要はない。教師はファシリテーター的な役割になり、授業をデザインして、評価するということになるのではないかと思います。ご存じの通り、何かを覚えさせて答えさせるという教育が意味を失ってきています。いかにグループで何かを作っていくかというところにシフトしていく。今回のプロジェクトともつながる話ですね。

――そうした新しい教育の構築に、私たちも貢献できればと考えています。最後に、それらの環境づくりを担うメーカーや企業などへの要望や期待をお聞かせください。

教師側で「こういうことをやりたい」とイメージを持っても、なかなか実際のICTで具体的にとしてどうすれば良いかわからないということがあるので、メーカーさんにはぜひとも「こういうことができますよ」などと、接点を持っていただけるとありがたいです。最低限Webで情報発信していただくだけでも私たちも見ますし。例えばWi-Fiで困ることもあると思うので、そこを聞いてくれたり教えてくれたり、それだけでも嬉しいです。それこそバッファローさんがハブになれる部分もきっとあるんじゃないないでしょうか。センセイワークさんの「提携モニター募集」のような企画があると、お互いのメリットにつながるタイアップにも発展するかもしれません。

最近僕の周りで「教育系のテーマをTwitterで探す」ことが流行っているんです。ほかにも、Facebookでそういうのを流したりするとどんどんシェアされていく。どこか1カ所つながればつながっていきます。昔と比べると、ネットワークの作りやすさが変わりました。生徒もそうですが、学校の中で必ずしも仲間をみつけなくても、日本中で同じことをやろうとしている人が次々つながってネットワークができていく。全然ICTに詳しくなかった僕がこうしてICTのモデルケースになったのも、この時代じゃなければ実現しなかった話だと思うんです。

――とても興味深いお話をたくさんお聞きできました。貴重なお話、ありがとうございました。

 

<参考URL>
掛川西高校 – ホームページ

関連記事

  1. ICT×教育

    2020年の新学習指導要領の注目点「プログラミング教育必修化」とは

    産業革命時代のためのプログラミング教育2020年の新学習指導要領で…

  2. ICT×教育

    ICT利活用教育の整備とともに求められる教職員の情報共有ネットワーク

    ICT利活用教育で重要になる、教職員のための情報やコンテンツICT…

  3. ICT×教育

    教育/学校関連ネットワークのセキュリティーと無線LAN普及

    ICT化が進む教育機関の「セキュリティー対策」学校などの教育機関は…

  4. ICT×教育

    日本が考えるICT教育って?【シリーズ「国が推進するICT環境の整備。ICTで子ども教育はどう変わる…

    シリーズ前回(第1回「昨今耳にするようになったICTって、そもそも何?…

  5. ICT×教育

    ICT導入が、生徒と地域をつなぐ「プロジェクションマッピング」プロジェクトに――掛川西高等学校 吉川…

    学校のICT環境整備が進み、教育の情報化が推進される中、新学習指導要領…

  6. ICT×教育

    ICT活用教育を促進する障壁に。教育現場での著作物利用の現在

    デジタル時代に求められる教育者の情報モラル―著作権―ICT利活用教…

最近の記事

2018年8月
« 7月    
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
PAGE TOP