ICT×観光

「今、日本の腕の見せどころ」 1964年からインバウンドを見つめ続けて――ホテルニューオータニ様インタビュー

日本は今、国をあげて観光立国を目指しており、訪日外国人が増加し続けています。これまで、訪日外国人の動向について、観光庁などの資料をまとめて概観し、実際の現場の状況などを旅行業を展開するJTBグループに聞きました。今回は担当者インタビューの宿泊施設編。日本を代表するグランドホテル、「ホテルニューオータニ」のご担当者にお話を伺いました。


<インタビュイー プロフィール>

株式会社ニュー・オータニ広報 湯本 健太郎様
株式会社ニュー・オータニで、ホテルのブランディングと企画、販売促進を手がけ、広報としてPRやIRもご担当。宿泊プランの造成やレストランの販売促進など、幅広い業務に携わっている。


株式会社ニュー・オータニが運営する「ホテルニューオータニ」は、ホテル御三家として知られるグランドホテル。日本のホテルといえばその名を思い浮かべる人も多いでしょう。現在、「ニューオータニホテルズ」として、国内に直営3ホテルを含む17、海外に2つのホテルを展開。今回お話を伺った湯本様は、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで広報を担当されています。

■1964年東京五輪を機に誕生。宿泊だけでない「目的地たりうる」ホテル

――恥ずかしながら今回調べて知ったのですが、ホテルニューオータニは、1回目の東京オリンピックの際に建てられたのですね。

はい。1964年の東京オリンピックのために誕生したホテルです。開催2年前(1962年)に、オリンピック開催期間中1日3万人の訪日外国人がやって来ると試算され、東京は圧倒的な宿泊施設不足に直面しました。しかしながら、数千人規模の宿泊客に対応できる民間のホテルを国や都の予算で建てる訳にもいかず、様々な実業家にホテル建設の話が持ちかけられました。時間も刻々と迫る中、最後の候補に挙がったのが、オリンピックの開催を控えている国立競技場の近くに2万坪の土地を所有していた大谷米太郎でした。当時81歳の大谷でしたが、国の要請のもと「男の仕事として国に協力したい」とホテル建設に乗り出しました。「首都高速道路」や「国産旅客機のYS11」、「新幹線」と並び、ホテルニューオータニもまた、オリンピック開催に向けて取り組まれた国家プロジェクトの一つなのです。

――もともと訪日外国人のために生まれたホテルだったのですね。その意味で、何か他と違った点はあったのでしょうか?

ホテルニューオータニは、開業当時から1,000室を越える客室数を誇り、訪日外国人の受け入れはもちろん、国際会議の誘致も視野に入れる前提で設計されています。ホテル館内には国内ホテル最大級の宴会場を複数備え、車両の収容台数は760台、宴会場玄関のロータリーを広くつくり、1964年当時から、国際会議で来館される各国国賓やVIPの車両が回遊することを想定した構造になっています。「ホテルをもう1棟建てられるのに」とも言われそうな土地の使い方ですが、そのお陰もあって、3度東京サミットの主会場に選ばれ、「即位の礼」晩餐会をはじめとした宴席も承っています。

また、グランドホテルの特徴とも言えますが、現在増えている宿泊特化型のホテルとは異なり、客室だけではなく38店舗の種類豊富なレストラン、日本庭園や屋外プール、100を超えるブティックや高級ブランドが軒を連ねるアーケードなど、付加価値となる施設を多数備え、目的地たりうる“デスティネーション”としてもお選びいただけるホテルです。
開業当時から、ホテルニューオータニのスローガンは「家族団らんから国際会議まで」です。

■宿泊の先に「体験」を用意。日本の文化と快適性を両立

――最近は、日常的に外国人旅行客が増えているのを実感できるような状況ですが、訪日外国人の利用に変化はみられますか?

外国人のお客様はここ数年増え続けており、外国人ゲストの宿泊比率は55%前後、多い日は60%に届きます。また、最近の変化として、外国人のお客様のコンシェルジュの利用が増えており、昨年コンシェルジュデスクをロビィに増設しました。人員を増やし、外国語に堪能なスタッフを配置することで、より多くのご要望にお応えできるよう取り組んでいます。

――コンシェルジュというと、何となく欧米のイメージがあります。地域差や、何か利用者の特徴などはみられますか?

地域別でみると、訪日外国人全体の半数が欧米、4割がアジア、1割が他地域です。外資系の有名ブランドも数多く開業している東京で、ホテルニューオータニのようなドメスティックな国産ホテルをお選びいただけるお客様は、日本のおもてなしや「日本を体験する」ことを重視されているのだととらえています。海外ではビジネス&レジャーをもじった「ブレジャー」がトレンドになってきているそうで、ビジネス目的での渡航の際でも、滞在先のレジャー要素の有無が宿泊施設を選ぶ基準になっている訳です。宿泊の先にそうした「体験」を用意できるか否かが、戦略の一つになってくるのではないかと考えます。

その一例ですが、昨年10月に、浴槽にヒノキ風呂を導入した「新江戸シングルルーム」が誕生しました。海外のホテルではシャワーブースだけで済まされるお客様が多い中、日本ならではの「風呂に浸かる体験」、「和風呂文化」をコンセプトに打ち出しています。設備も、55インチの4Kテレビやタブレット端末を常設するなど、最新設備を採用し、日本の文化を感じつつ快適性も両立させています。ビジネス需要を想定しているためお一人様専用ですが、かなりご好評いただいていることから、今秋にはデラックスルーム、スタンダードルームの増設も進めています。

魅力的な付加価値を案内するパンフレットの数々。「新江戸シングル」は、全ての部屋から日本庭園が眺望でき、石鹸は昔ながらの窯炊き製法で作った無添加石鹸、お風呂上りのお酒には「八海山」を用意。「お正月プラン」をホテル業界で初めて打ち出したのもホテルニューオータニなのだそう。

■ホテルは「人の温かさ」あってのもの。ITはそれをサポート

――客室設備のお話が出ましたが、IT活用の状況はいかがでしょうか?例えばWi-Fi環境整備については、海外で普及しているので、パンフレットなどの案内でも、宿泊施設のWi-Fi環境の有無が明示されていると聞きます。

Wi-Fiは全ての部屋、全てのレストラン、ロビィに導入されており、無料でご利用いただけます。また、本館(ザ・メイン)の客室には宿泊者専用のスマートフォン端末を昨年春から常設し、利用実績も増えています。

――コンシェルジュの利用が増えているそうですが、業務面のIT活用はどうですか?最近、働き方の改善やサービス向上などの目的でのWi-Fi導入が強まっています。

ホテルは「人の温かさ」があってのもので、IT導入はバランスだと考えています。ご自身でお調べになりたいというお客様もいらっしゃいますので、コンシェルジュデスクにもタブレット端末を用意しています。ただ、コンシェルジュは困っている方に気づいた際には、まず、「How may I help you?」とお声がけします。様々なお客様がいらっしゃいますし心地良さの距離感も異なりますので、それぞれにあったおもてなしを心がけています。
もちろんタブレット端末を各フロントに置くことでお客様に視覚的な情報などを提示しやすくなったということはあるかと思います。「プラスアルファ」としてITを活用するケースですね。

――近年、スマホの供給が高まったことで、旅行の仕方や過ごし方も変化したのではないでしょうか?

逆説的ですが、これだけ携帯端末が普及している世の中で、それでもコンシェルジュの需要が伸びているところに、「現地の声を聞きたい」という需要があるのを感じます。コンシェルジュスタッフがご案内した情報をもとに、スマートフォンを使って理解を深めている方が多いようにお見受けします。例えば、端末の画面を指さしながら「ここに行きたい」「これを探している」などと尋ねて、聞いた内容をスマートフォンにメモしたり、翻訳アプリを起動されるケースなど、ITをコミュニケーションの補助ツールとして活用されている印象です。ITが普及したことで、共有言語がなくとも「何とかなるだろう」と考える、気持ちの上でもハードルが下がっている感触はあります。実際に端末一つで何とかなってしまうことも増えたと思います。

――なるほど、「まずは人同士」というのがあった上で、それをフォローアップするのがITの役割ということですね。バッファローなどのようなIT機器メーカーへの要望はないでしょうか?

日本の製品は十分洗練されていると思いますし、IT機器にまつわるトラブルはほとんどございません。仮に何か発生したとしても、ヒューマンウェアで解決するのがホテルの使命だと心得ています。もちろんITに特化しているホテルもあると思いますが、ホテルニューオータニは、人と人の距離感、東京オリンピックと共に誕生した国産ホテルとしての誇りを胸に、日本ならではのきめ細やかなおもてなしで心地良さを演出していきたいと考えております。

――メーカーはそれを妨げず、円滑にするような製品を提供していかないといけませんね。通信の需要は高まっており、コミュニケーションの仕方もまだまだ変化するかもしれません。それに対してフォローアップしていくのがメーカーの責務なのかなと思います。

■今は日本が世界に試されている時。おもてなしの真骨頂を見せるチャンス

――政府は観光立国を目指し、2020年に訪日外国人旅行者4,000万人という目標を掲げています。1964年の東京オリンピックのお話を聞いて、改めてすごい数字だなあと思いましたが、どのようにお感じですか?

日本を知ってもらう良い機会だと思います。旅行業が産業のトップに位置づけられている国々に比べれば、日本は遠く及びません。かなり改善されてきたと思いますが、言語対応に課題があるのも事実です。空港や駅などの看板ももちろん大切ですが、一番はコミュニケーションです。
たとえ言葉が通じなくても、諦めずに、フレンドリーに伝えていくのが大切だと思います。日本人は「間違えたらどうしよう」「伝わらなかったらどうしよう」と考えがちですが、例えば、日本人観光客が海外に旅行すると、露店などでカタコトの日本語で誘い文句を投げかけてくる方が必ずいますよね。「安いよ」とか「おみやげにオススメだよ」とか。もちろん購買を促すための一言ですが、日本人に声をかけるために頑張って覚えたのだと想像すれば、悪い気はしません。誰だって気にかけられれば温かな気持ちになります。たとえ流暢でなくても、国を挙げて「ようこそ日本へ」という雰囲気を作り上げていくことが必要ではないかと思います。日本を訪れる皆さまが求めているのは、日本人の温かさだと思います。

――最後に、宿泊業をはじめ訪日外国人対応をされている皆さんにアドバイスやメッセージをいただけますか。

今、日本は世界に試されている時だと思います。ここが腕の見せどころで、既に世界が注目している和食文化や職人の技に加え、日本のおもてなしの真骨頂を見せるチャンスです。ホテルや旅館に限らず、国を挙げて日本の魅力を自慢する機会ですので、ぜひ皆さんと一緒に盛り上げていきたいですね。

――なるほど。そう考えればみんなで心を一つにできそうですね。ありがとうございました。

<参考URL>
ホテルニューオータニ(東京)

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