ICT観光

訪日インバウンドの現状を探る【シリーズ「日本の観光立国とICT」】

■増加するインバウンド

現在、観光庁は「訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業)」に取り組んでいます。

この事業は訪日外国人旅行者の増加を目的とした活動で、アメリカやイギリス、韓国、中国などの20の重点市場に対して「海外広告宣伝」「旅行博出展・イベント開催」「海外旅行会社招請」など複数の取り組みを行っています。

ビジット・ジャパン事業の成果に合わせて、2020年東京オリンピックの開催決定が追い風となり、2011年以降は右肩上がりで訪日外国人旅行者数が増えています。その推移を見てみると、
2011年:622万人
2012年:836万人
2013年:1,036万人
2014年:1,341万人
2015年:1,974万人
となっていて、特に2015年は前年比47%増加と、大幅な伸びを見せていることがわかります。

この状況が顕著に表れたのが、2015年の新語・流行語大賞です。訪日外国人旅行者が家電や日用品を大量に買い込む、いわゆる「爆買い」が選ばれたのです。爆買いを含むインバウンド消費額は3兆4,771億円と、なんと自動車部品産業の輸出総額と肩を並べるレベルにまで成長しているのです。

訪日外国人旅行者を国別で見てみると(観光庁 2015年の測定値)、
1位:中国(499万人、25.3%)
2位:韓国(400万人、20.3%)
3位:台湾(368万人、18.6%)
4位:香港(152万人、7.7%)
5位:タイ(80万人、4.0%)
と、圧倒的にアジアからのインバウンドが占めていることがわかります。

じつに中国だけで訪日外国人旅行者の1/4を占めているという現状。日本にとっては中国を中心にアジア圏は、観光の観点から見ると“大のお得意様”と言えるでしょう。

<ココまでのまとめ>
・ビジット・ジャパン事業の成果により訪日外国人旅行者は増加している。
・訪日外国人旅行者を国別で見ると、中国を中心にアジア圏が多くの割合を占めている。

<参考資料>
観光庁│平成28年版 観光白書 第1部
観光庁│平成28年版 観光白書 第2部

 

■外国人旅行者の数は多い? 少ない? さらなる成長の余地は?

政府は観光需要を取り込むことで地域活性化や雇用の増加を促進する「観光立国」を目指して活動を続けていますが、ここで気になるのが、世界各国と比べてみると日本の「外国人旅行者受入数」は多いのか、少ないのか、ということ。

観光庁が発表した「平成27年度 観光の状況」を見ると、外国人旅行者受入数は世界で22位、アジアで7位という結果。大幅に伸びた2015年の訪日外国人旅行者数1,974万人は、このデータに当てはめると、世界で16位、アジアで5位に相当します。ちなみにトップ3はフランス、アメリカ、スペインで、日本よりも上位にいるアジア圏は中国、香港、マレーシアなどがあります。

この結果をポジティブに捉えれば、「日本は成長中でまだ伸びしろがある」ということ。

では、この“伸びしろ”とは具体的に何なのでしょうか?

1つは「観光地を日本各地に分散すること」です。というのは、観光庁「平成27年度 ICTを活用した訪日外国人観光動態調査 調査結果概要」によると、訪日外国人旅行者は東京と大阪に集中する傾向が高いことが判明しているからです。

特に宿泊にその傾向が顕著で、この調査では訪日外国人旅行者の45%が東京と大阪に宿泊していました。日本の観光人気スポット「東京・箱根・富士山・名古屋・京都・大阪」を周遊する、いわゆる「ゴールデンルート」だけでなく、他の地域への旅行需要を喚起することが“伸びしろ”を埋めるためには必要な対策の1つであることは間違いありません。

日本には大都市ではなくとも魅力的な街がたくさんあります。
その魅力を伝えるために現在欠かせないものの1つと考えられているのが「ICT」です。

<ココまでのまとめ>
・日本のインバウンドはまだ伸びる可能性が十分にある。
・そのためには東京・大阪以外の地域への旅行需要を喚起する必要がある。

<参考資料>
平成27年度 ICTを活用した訪日外国人観光動態調査 調査結果概要

■外国人旅行者を増やすためにはICTの環境整備が不可欠

日本に興味を持ってもらい、旅行先に選んでもらうためには、日本からの一方的な発信だけでは不十分です。日本に親近感を持ち、魅力を感じてもらうのに重要なのは旅行者たちの「生きた情報」。つまり、実際に訪れた旅行者たちの口コミ情報が大切なのです。

観光庁の調査によると、訪日外国人が「出発前に得た旅行情報源で役に立ったもの」として挙げているのは、1位が28%の「個人のブログ」で、2位が17.1%の「自国の親戚・知人」となっています。さらに11.9%の「口コミサイト」や11.2%の「SNS」も高ポイントを獲得しています。これは10.5%の「旅行専門誌」よりも高水準で、いかに個人の体験が参考にされているかがよくわかります。

訪れた観光客が日本での旅行に満足して情報を発信することで新たな観光客が生まれ、さらにその観光客が満足してまた情報を発信する――このような「観光客が新たな観光客を呼ぶ好循環」が生まれるのです。

一般の方でもSNSなどを通して気軽に発信ができますし、ブログや動画共有サイトなどで、詳しく魅力的に発信を行う方も多くいます。

例えば、浅草に店舗を構えるあるうさぎカフェは、来客の9割が外国人となっています。来店のきっかけで最も多いのは「訪日旅行経験者の口コミ」とのことで、SNSや動画サイトを通じてお店の存在を知り、お店を訪れているのです。

こうした効果を生むために必要なのは、「魅力的な観光体験を提供すること」と、「情報を発信するためのインターネット通信環境を整えること」です。

しかし、残念なことに日本の通信環境は、外国人旅行者からの評判がよくありません。
観光庁が外国人旅行者を対象に行ったアンケート調査では、「旅行中困ったこと」に対する問いに対する回答の第1位は「無料公衆無線LAN環境」でした。2位の「コミュニケーション」24.0%に大差を付けて、36.7%もの外国人旅行者が「困った」と回答しています。
日本は英語が通じないケースが多いので「コミュニケーション」が最も大きな障壁になりそうなものですが、それより遥かに問題視されているとはちょっと驚きですね。

<ココまでのまとめ>
・外国人旅行者を増やすためには口コミが大きなポイントになる。
・しかし、日本は無線LANの環境整備が満足なレベルに達していない。

<参考資料>
観光庁│外国人旅行者の日本の受入環境に対する不便・不満
観光庁│訪日外国人の消費動向

 

■海外のWi-Fi環境

総務省が発表した資料を見ると、日本は欧米アジア各国に比べて「無料Wi-Fiの利用経験者が少ない」ことがわかっています。その理由は、日本ではLTEや3Gが普及しているためであると総務省は分析しています。

このように日本人が利用しないため、無料Wi-Fiの整備が遅れている事情があります。
これに対して、海外では事情が異なり、街中に無料でWi-Fiを使えるスポットが整っているケースが少なくありません。

例えばアメリカは環境が非常に整っており、ホテルやカフェだけでなく、図書館や公園、公共の交通機関でも無料Wi-Fiを利用することができます。
アジアでも、シンガポールやインドネシア、タイなど、無料Wi-Fiが街中で当たり前に利用されている国も多くあります。

無料のWi-Fiはセキュリティの問題などもあり、国によって事情はかなり異なります。しかし、インバウンドをさらに増やすためにはICTの環境整備が不可欠であることは間違いありません。政府はこの状況を黙って見ているわけではなく、2020年東京オリンピック開催に向けて、さまざまな強化プロジェクトを行っています。

そこで、次回の連載第2回では、政府のICT強化に対する取り組みに着目していきます。

<参考資料>
総務省│Wi-Fi整備についての現状と課題

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