ICT教育

教育現場へのICT導入の障壁とは【シリーズ「国が推進するICT環境の整備。ICTで子どもの教育はどう変わるの?」

■デジタル教科書の積極的な推進は困難?その理由とは

“デジタル教科書”というものはご存知でしょうか?
言葉のまま、デジタル情報化された教科書のことですが、文部科学省では次のように定義しています。
「デジタル機器や情報端末向けの教材のうち、既存の教科書の内容と、それを閲覧するためのソフトウェアに加え、編集、移動、追加、削除などの基本機能を備えるもの」(文部科学省『教育の情報化ビジョン』より抜粋)

世の中がICT化する中で、教育もICT化すべきという声の高まりを受け、2010年頃から開発され、紙の教科書の補助的な扱いではありますが、徐々に利用が広がっています。

そのような背景のもとに検討が行われてきましたが、2016年末、文部科学省は資料の中で「全面的な導入を拙速に進めることは適当ではない」という見解を発表しました。

デジタル教科書の必要性を多くの人が感じているなかで、なぜそういった結論になったのでしょうか?

それは主に、2つの理由があります。

1つは、「現行の教科書制度」です。
そもそも、デジタル教科書の利用が本当に子どもにとって有益なのかどうかは、賛否両論あります。また、健康や精神上、悪影響があるのではないかという不安の声も根強くあります。
そのためにも、実地的な検証を行い、客観的・定量的な結論を出す必要があります。

しかし、実は現状、児童生徒が日常的に使用する教科書は、「紙媒体で制作されたもののみ」しか認められていません。
そのため、検証を行うことは「実際上困難」だと資料に記載があります。

つまりデジタル教科書を実現するためには、制度自体の改革をする必要があるということになります。

もう1つは、「ICT環境の整備不足」です。
多数の自治体で、デジタル教科書を使用するために必要な環境が整っていないと判断されました。
次の章で、詳しく現在の状況を見ていきましょう。

<参考資料>
文部科学省│「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議 最終まとめ
文部科学省│学びのイノベーション事業「第5章 学習者用デジタル教科書・教材の開発」

■教科書のデジタル化を阻むものとは?

文部科学省は2016年7月に「教育の情報化加速化プラン」を立て、教育のICT化を下記6本の柱で進めてきました。

①2020年代の「次世代の学校・地域」におけるICT活用のビジョン等の提示
②授業・学習面でのICTの活用
③校務面でのICTの活用
④授業・学習面と校務面の両面でのICT活用
⑤教員の指導力の向上や地方公共団体・学校における推進体制
⑥ICTによる学校・地域連携
ですが、残念ながら現時点ではデジタル教科書を導入するには「満足な基準に達していない」と判断されました。具体的に、現在はどのような状況で、何が課題になっているのでしょうか?

文部科学省の資料「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議最終まとめ」から、現状を探ってみます。

・情報端末
政府は生徒1人1台に教育用コンピュータを普及することを目標にしていますが、現時点では学校や自治体によって進展状況がさまざまです。
また、規格や機能の統一化も課題です。そのほか「使いやすさ」「価格」「互換性」「健康面への影響」など、検討するべき項目が多数あると考えられています。

・ネットワーク環境
デジタル教科書を導入しても、無線LAN(Wi-Fi)環境が整っていなければ、その性能を十分に発揮できません。しかし、現状では全ての学校のネットワーク環境が整っているとは限りません。

デジタル教科書を“無用の長物”にしないためにも、全ての学校や自治体において「情報端末の普及」「ネットワーク環境の整備」は不可欠の課題となっています。

<参考資料>
文部科学省│「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議 最終まとめ
文部科学省│教育の情報化加速化プラン~ICTを活用した『次世代の学校・地域』の創生~

■教員のICT活用スキルの向上も必須

デジタル教科書を導入し、教育現場をICT化するうえでポイントになるのは「環境」に限ったことではりません。それを使用する「人材」、つまり教員にもICTを利用する能力が求められます。

しかし、教員のITリテラシーにはかなりばらつきがあり、特に高齢になればなるほどICT機器を使いこなすのが難しい現状があります。
文部科学省は資料の中で「研修等を通じて、ICT活用指導力を含めた教員の指導力向上のための取組の充実が必要」と説明していますが、簡単ではないはずです。

実際に教育の現場からは「ICT教育のメリットを頭では理解しているものの、どこから手をつけていいのかわからない」という声を聞くことがあります。
この悩みに対するヒントになるのは「先行事例」を見て、そこから学び、真似をすることです。

総務省が発表している資料「教育ICTの新しいスタイル クラウド導入ガイドブック 2016」には、このような先行事例や導入の悩みへの対応策が多数掲載されているので、不安に感じている現場の教育者は情報収集に利用してみると、ヒントが得られるかもしれません。

このようにいくつかの障壁があり、デジタル教科書は現時点では「積極的に進めるのは困難」と発表されました。

しかし、検討が止まったわけではありません。
次期学習指導要領に向けた検討の中で、デジタル教科書を推進するべきだという意見も多く出ているということもあり、文部科学省はデジタル教科書の導入時期について「可能な限り、次期学習指導要領の実施に合わせて導入し、使用することができるようにすることが望ましい」という見解を記しています。
そのためにも、必要な制度改正や準備を進める必要がある、と結んでいます。
具体的に決まっているわけではありませんが、文部科学省としてもさまざまな障壁がある中、前進させようともがいているところのようです。

世界的にICT化が進む中、取り残されないためにも、教育のICT化は重要な課題だと言えます。子どもたちがICTを活用し、より効率的に学ぶ風景を早く見られるようになるといいですね。

<参考資料>
総務省│教育ICTの新しいスタイル クラウド導入ガイドブック 2016

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